日本語教師15の役割

はじめに

私もそこそこ長いこと日本語教師をやっていたわけですが、私は最初、教師の仕事は学生にわかりやすく教えることと言うイメージでいたんだなと今になると思います(誰でもそうなのかもしれませんが)。

もちろん今もそれは大切だと思っていますが、ずっと教師をやっていると、わかりやすく教えることだけ目指してもうまくいかないことが多々あります。

これは日本語教師に限らず教師と名のつく仕事全てに言えるのだと思います。教師にはこんな役割も求められる場合もある、また、こういうスキルがあった方がいいかもしれないというのをまとめてみました。

目次

  1. トレーナー
  2. インストラクター
  3. コメンテイター
  4. プログラマー
  5. スピーカー
  6. モデレーター
  7. エヴァンジェリスト
  8. モチベイター
  9. ファシリテーター
  10. マネージャー
  11. フォロワー
  12. フレンド
  13. サポーター
  14. カウンセラー
  15. コンサルタント

教授に関わる部分

まずトレーナーとインストラクター。あえて分けてみました。

1 トレーナー

スポーツの場合、トレーナーは、筋力トレーニングなどの適切な訓練を施し、体作りや技術の向上を助けるのが役割となります。

トレーナーの仕事を日本語教師の仕事に置き換えると、「て形」の練習だったり、ロールプレイを授業ですることだったりするんですかね。これはどんな日本語教師であれ、欠かせない要素だと思います。

勉強の効果を最大限にするために生活指導を行うこともトレーナーの仕事なのかもしれません。

2 インストラクター

スポーツの場合、インストラクターの仕事は、技術指導や知識を伝えることです。対象となるスポーツ等のやり方や技能などを教え、指導します。

日本語教師に置き換えると、トレーナーから学んだ知識をどう使えば、役に立つかを教えるのがインストラクターと勝手に定義しています。

もう少し具体的に言うと、例えば「さそう」表現として「〜ませんか」を教えて貰えばとりあえず「さそう」ための言葉は使えるようになりますが、「さそう」表現を使う目的は正しく日本語を言うことではなくて「さそう」ことに成功することです。どう誘えば成功しやすいか、言語知識以外のコミュニケーション法も含めて教えるのがインストラクターという感じだと思っています。

3 コメンテイター

ニュース番組やスポーツ番組などで、視聴者にわかりやすく解説してくれる人ですね。

これを日本語教師に当てはめると、例えば「わけではない」と「とは限らない」のような似たような文型の違いの説明が上手な人、あるいはEJUの総合科目等の対策だったり、ある程度のレベルの読解教材で扱っているテーマの解説が上手な人を指すことになると思います。

4 プログラマー

スポーツの場合プログラマーとは、スポーツ医学や科学など根拠が明らかな理論に基づいてトレーニングのメニュー作りや指導をする人のことです。

実は私がなりたい理想の日本語教師像はこれでした。学生の現在の能力、性格、受けてきた教育、言語学習のセンス、教養、趣味嗜好…学生一人一人にその学生が伸びる最適なプログラムを提供したかったんです。

例えばN1、N2に学生を合格させたいのなら、もちろん、語彙や文法の知識を覚えやすいようにおしえることも大切なのですが、それはトレーナーとしての仕事で、かつそれだけでは足りません。合格するためには学生の足りない部分を適切に把握し、合格に最も近い道筋を示すことがプログラマーの役割だと考えています。

第二言語習得理論を始め、学習理論・トレーニング理論および方法論、脳科学の知識等が求められる役割だと思います。

↓の本はもう15年ぐらい前の本ですが、3年ほど前から続けて2冊続編と言える本が出ていたんですね。

話し手としてのスキルに関わる部分

5 スピーカー

教師は聴衆に話を聞いてもらう話し手、スピーカーでもあります。

もし今、これを読んでいる方が学生に話を聞いてもらえない…という悩みを抱えているのなら、例えば落語家のように人を引き込む話し方ができることやアナウンサーのように通りやすい声で話すことが必要なのかもしれません。こういった職業の方の秘訣を学ぶことも重要なのだと思います。

昔はこういうの読んでたりしました。

この魚住りえさんの本は自分に役に立ったのもあるのですが、話し方が暗い学生に面接の指導をしていたときに、どうやって明るい声を出せばいいかというのを指導するときに役に立った記憶があります。

6 モデレーター

モデレーターとは簡単に言ったら司会ですね。討論会や座談会などで、開会や閉会の挨拶、話題の提示や進行、参加者との質疑応答、発言者の指名などを行う人のことですね。

私の個人的な経験なのですが、FM東京のラジオ番組に出演させていただいたことがありまして、その時驚いたのがラジオDJの方の話の引き出し方の上手さでした。事前打ち合わせ一切なしの生放送でこちらも心配だったのですが、質問の組み立て方の上手さと、またとても答えやすい質問のしかたに、終わった後はただただDJの方すごいと思いました。この能力日本語教師にも必要だなと思ったのがこの記事にモデレーターという項目を加えた理由です。

話の振り方や、反応の仕方などテレビで有名とされるMCの方には見習うべきものが多くあるのではと思います。

この本は読んだことないのですが、面白そうだなと思いました。

7 エヴァンジェリスト

エヴァンジェリストとは、もともとはキリスト教の「伝道者」という意味で、主にキリスト教を布教するための活動をしている人などを指す言葉です。

最近では企業が自社の製品、サービスのよさを伝える役職というような意味で使われており、アップル、マイクロソフト、日本ではソニー等でもエヴァンジェリストが活躍しています。

日本語教師の場合で言うと、日本の文化や観光地などを魅力的に伝えることだと勝手に思っています。私は花見や紅葉の名所、花火大会等無料で楽しめるものから、おいしいラーメン屋や、おもしろそうな絶叫マシーンを学生に教えると言うかなり軽いノリでエヴァンジェリストを自称していますが、こういうのは学生に非常に受けが良いです。

学生の生活を楽しくする、日本のファンになってもらうというのは日本語教師の重要な仕事のひとつだとも思っています。

組織マネジメントに関わる部分

8 モチベイター

モチベイターとは、相手のやる気を出させる人、相手のやる気をコントロールすることができる人のことです。心理学や精神分析学などを学び、人にやる気をもたせる技術を習得した専門家のことですね。私はモチベイターというとなんとなくサッカーの監督をイメージするのですが、マンチェスターシティーのグァルディオラ監督や、アトレティコマドリードのシメオネ監督あたりが、モチベイターとしては有名です。

なんとなく底抜けに明るい人、社交的な人、そしてカリスマ性を持った人がモチベイターに向いていると思われるかもしれないのですが、モチベーションを引き出す仕組みは科学的にも研究されており、日本語学校向けにまとめると以下のようなことです。

・教師は学生に常に成功をイメージしてもらう
・教師は学生に対し常にポジティブであること
・教師は学生を信頼すること
・教師は学生を守ること

もう少し詳しく勉強してみたいと言う方にはこの本がおすすめです。

https://www.amazon.co.jp/図解-モチベーション大百科-池田貴将/dp/4801400426/ref=sr_1_1?__mk_ja_JP=カタカナ&dchild=1&keywords=図解モチベーション百科&qid=1594357073&sr=8-
9 ファシリテーター

ファシリテーターとは一般的に言うと、グループや組織でものごとを進めるときにその進行を円滑にし、目的を達成できるように中立的な立場から働きかける役割を担う人のことです。

教室内における活動がうまくいくようにまた効果を最大限化するために必要な役割ですね。

モデレーターと重なる部分も多いのですが、モデレーターは進行に、ファシリテーターは仲介に重きが置かれている感じでしょうか。

例えばディスカッションの授業であれば、

  • 参加者が意見を出すように働きかけ意見を聞き出す
  • 参加者の意見をまとめる
  • 意見を整理する

等がファシリテーターの仕事になるんですかね。言葉で書くと簡単そうですが、自由に意見を出しやすくする雰囲気を作ることは難しく、ファシリテーターとして専門的な勉強が必要となる理由だと思います。

このファシリテーターとして機能するためには、先述のモチベーターとしての役割や後述のマネージャー、フォロワー等としての能力がないと難しいと思います。

入門としてはこの本がおすすめです。

10 マネージャー

高校の部活で、練習が終わったらレモン水を持ってきてくれる可愛い女子マネージャーのことではありません。

組織、個人等の目標を決め、それを達成するためにメンバー一人ひとりがパフォーマンスを最大限発揮できるようにサポートし、評価・フィードバックするのがマネージャーです。

↓のようなことを行っている学校最近多いと思います。

https://golazo-web.com/1748-2

これは有名な野球の大谷翔平選手が高校時代に作ったマンダラートですが、これをはじめ市販でも様々な目標管理シートというのは販売されています。

このように作った目標に対して、叱咤激励し、うまくいく方法をアドバイスしていく役割もやはり教師として重要だと思います。

また、上にも叱咤激励とありますが、部下をほめる、しかるというのもマネージャーとして大切な仕事です。

叱るのポイントはいろいろなところで言われていると思いますが、まず「叱る」と「怒る」の違いは大丈夫でしょうか?例えば、学生が授業中寝ていたとして「なんで私の授業で寝ているんだ!一生懸命準備してきたのに!けしからん!」と思って起こす行動は「怒る」で、それはただのストレス発散行為です。例えば「寝ないように生活改善のアドバイスをする」のが「叱る」です。

  • 人前ではしない
  • 人格否定をしない
  • ○○はダメじゃなくて○○したほうがいいよとポジティブな表現を使う

ことが叱るのポイントですかね。

ほめるのポイントもいろいろなところで言われていますが

  • ほめる語彙は豊富に
  • 直接、間接、人前、1対1等ほめるパターンも豊富に
  • 結果だけでなく過程をほめる

あたりですかね。

結局かわいい女子マネージャーが出てきてしまいましたが、マネージャーというかマネジメントについて勉強したいと思うなら入口は今更ですが「もしドラ」ですかね。数年前たまたま入ったブックオフで100円で売っていましたし、2、3時間で読める手軽な本だったと思います。

11 フォロワー

一般にリーダーの仕事とは組織の目標、方向性を定め、それをメンバーに浸透させ、自分が率先模範することとされています。リーダーシップとはリーダーとしての仕事を果たすためのスキルですね。

またフォロワーとはリーダーの下につく人々のことで、フォロワーシップとは、リーダーに対し自律的な支援を行う態度のことでとされています。

ここ最近、日本語教育業界においてもリーダーシップという言葉が重要視されるようになった気がします。

リーダーシップとは天性のものでもなく、またどんな時でも普遍的に通用するリーダーシップがあるというものでもありません。リーダーシップ論は学問として確立されており、学んで身に付けることのできるものとされています。

教員にとってもリーダーシップは必要な素養なのではないかと思いつつ、リーダーシップ論的に考えると、教員が顧客である学生をまとめるリーダーというのは変だなと思いながら色々考えていました。

この記事を書いている最中に、学生=リーダー、教員=フォロワーであり、教員に求められるのはフォロワーシップなんじゃないかと考えると非常にしっくりきました。

というぐらいなので、私はフォロワーシップについては学んだことがないのでこれ以上は書けません。これから勉強します。

↑の記事にあるフォロワーの役割の「補佐する」「翻訳して具体化する」「提言する」「貢献する」「当事者になる」というのは何やら、教員の立ち位置としてヒントになる気がしてなりません。

本ではロバート・ケリーという方が書いた「指導力革命」というのがこの分野の基礎になっている印象ですが、この本は今流通していないようです。

一応一冊これを読もうかなと思ったものを紹介しておきます。

対人スキルに関わる部分

12 フレンド

いうまでもなく「友達」です。と言ってもここでの友達は「趣味友達」的な狭い意味での友達を指しています。

学生の「話したい」を引き出すことが日本語教師の仕事であるなら、アニメ、ゲーム等、共通の趣味・興味があると話はグッと引き出しやすくなりますよね。クラス授業でどの学生も興味のある趣味というのを探すのはなかなか難しいところもあるとは思いますが、面談やプライベートレッスンで相手の信頼を引き出すために共通の趣味、興味の話でお近づきになるというのは手っ取り早い方法になると思います。

私がキングオブサービス業だと思っているホストクラブ、キャバクラ等で人気のある方は、どんな話題でも話が盛り上がるよう流行や社会情勢、経済情勢さえもくまなく追っているそうです。

自分が興味がないことでも仕事のために情報を仕入れるのはまさにプロだなと。

昔、私が教えていたクラスに国籍が結構バラバラなクラスがありました。そのクラスが授業中に一丸となって私に「ウォーキングデッド」というドラマを私に薦めてきたことがあります。しゃーないから見てやるかと思って見たら、あまりに面白すぎて1週間ぐらいで当時の最新話まで全部見てしまったというある意味逆の経験をしたこともあります。

学生たちも自分たちが一生懸命薦めたドラマに相手がハマってくれたとなったらうれしくなるのではないでしょうか。

13 サポーター

ある特定のサッカーチームを応援する人のことをサポーターといいますね。これは応援するだけでなくチームを支えているという概念から来ている言葉です。

記事が長くなりすぎてだんだんやっつけになってきたのですが、学生に対して、「私は敵ではない、あなたの味方だから」と、ひたすら応援する、いつも気に掛ける。これだけで響く学生は結構います。(響かない学生も当然います。)

このサポーターとしての役割は先述のモチベーター、マネージャー、ファシリテーターなどとしての役割を果たすための学生との信頼構築という、最初のステップにもなると思います。

14 カウンセラー

カウンセラーと後述のコンサルタントと同じではと思ったのですが、あえて分けてみました。ここで言うカウンセラーは話し手と対局にある「聞き手」と勝手に定義しています。

「傾聴力」と言う言葉、聞いたことあると思いますが、相手の話を心から聞くスキルのことです。 相手の本当の気持ちを引き出すこと、またそれを理解することが目的です。

そのためには、相手の表情や声の調子、気持ちの変化などにも気をつけることが重要なようですね(私は全くできません)。

これもサポーターと同様先述のモチベーター、マネージャー、ファシリテーターなどとしての役割を果たすための入り口ですね。

15 コンサルタント

コンサルタントとは、Oxford Languagesによると、「ある事柄について助言・指導を行う専門家。相談役。」だそうです。

日本語教師の仕事ですと、例えば進学指導だったり就職指導というのが一番イメージしやすいのかなと思いますが、効果的な日本語学習法の助言、指導というのも大切な仕事になると思います。

当然、進学指導にしても就職指導にしても日本語学種指導にしても、深い知識と経験を持ち、的確なアドバイスができることが必要になるため、経験の浅い方には難しい役割になりそうです。

しかしながらこれは進学指導や就職指導であれば教員とは別に担当を置いていいんじゃないかと思いますね。

まとめ

教師ひとりでこの15、全ての役割をフォローするのは大変だと思います。

ドラクエ6で基本職、上級職全職業を★8にするようなものです。

また、どれかが特に重要なのではなく、全てが時と場合により重要な意味を持つと思っています。

また他にもこんな役割あるよというのもあると思います。

教師としては、自身の現在の仕事に必要な役割をカバーすることと、自身の性格、特性にあった役割を生かすことが大切なのではと思っています。

所属する機関、教育方針、育てたい人材像、またレッスンの種類(集団、プライベート、企業)、更に学習者の目標や属性によって求められることが変わってくるためです。

教師の方へ

自分がどの役割に強みがあり、どの役割が弱いかを把握しておくと、自分の教師としての能力もアピールしやすくなると思います。

また、自分の目指したい教師像をはっきりイメージすることによって回り道せず突き進むことができるような気もします。目指したい教師像というのはある程度経験を積むことによって見えてくるものである気もしますが。

ダイバーシティが叫ばれる昨今ですが、教師の多様性というのも認められるようになって欲しいなと思います。

機関の方へ

①組織の目標というかビジョンのために足りないスキルを把握すること

②どんな教師が欲しいかというのを、「コミュニケーション力のある人」等の漠然とした言い方でなくどんなタイプの教師がほしいか、またどんなタイプの教師が活躍しやすい環境かを明確に言語化すること

③今いる教員の強みをしっかり把握し、その強みを生かした運営をすること

これらができれば、ミスマッチが減りますし、より強力な組織ができるのではないかと思います。

Follow me!