留学生30万人計画が達成されたわけですが、留学生の置かれた環境や資格外活動違反、日本語教育機関による入管法違反、大学の無理な留学生の受入、等が度々報道されており、それが留学生30万人計画により生じた歪と言われてしまうのも仕方のない状況になっています。

そこで今回留学生30万人計画とはなんだったのか、なぜ歪が生じてしまったのかということを改めて考えたいと思います。

政府は「留学生30万人計画」で何を実現したかったか

政府は何を実現したくて(=ビジョン)「留学生30万人計画」を策定したのでしょうか。「留学生30万人計画」の骨子を見てみます。

文部科学省:「留学生30万人計画」骨子の策定について(2008)

この「留学生受入30万人計画」の骨子だけを見ても、日本という国が留学生を受け入れることによって何を実現したかったのか、ビジョンがわかりません。

次に、「留学生受入30万人計画」の骨子の中に、「(留学生受入30万人計画は)グローバル戦略の一環」と書いてあるのでそのグローバル戦略のビジョンを見てみます。

内閣府経済諮問会議:グローバル戦略(2006)

その中の「Ⅰ.グローバル戦略策定の背景と基本的な考え方」として

○ヒト・モノ・カネの制約の下で我が国の活力を有効に引き出すためには、国内の資源を我が国が得意とする分野に集中させ、それを補完する形で海外の資源を最大限に活用することが鍵となる。 

○例えば、人材については、医療・介護などの分野で海外の人材を活用し、それによって限られた国内人材を産業の国際競争力強化に振り向けるなど、少子高齢化にも耐えうる強靱な経済構造を構築する。

また「Ⅱ.目指すべき姿としてのこの国のかたち」として

今後のこの国のかたちとして、グローバル化の流れを活かして成長する「産業のフロントランナーとして世界をリードする国」、そして「国際社会において知的なリーダーシップを発揮する品格ある国」という目標を掲げる。

とあります。

「留学生受入30万人計画」のビジョン

留学生受入を通して、政府が実現したかったことは、上記のⅠ及びⅡ(更に他の部分)から読み取るしかありません。ここから見えてくる「留学生30万人計画」のビジョンはなんでしょうか?

産業でも、国際社会においても日本がリーダーシップを発揮したい

というのがビジョンであるということはわかりました。ではそれをどうやって実現するかというと、見方によっては

ブルーカラー労働は外国人に任せて日本人はホワイトカラー労働に

ということになるのではないでしょうか。

これはそもそも「グローバル戦略」のビジョンです。

「留学生30万人計画」のビジョンが明示されていなかったことは、「留学生30万人計画」を国策として掲げる上で問題があったと思います。

政府が明確なビジョンを示さなかったため、高等教育機関や日本語教育機関が30万人という数字だけを好き勝手に追うものになってしまいました。それは政府の組織運営上のミスだと思います。(もちろん変なことした学校は悪いです)

ビジョンの重要性

なぜビジョンの話を繰り返ししているかということ、ビジョンとは、組織としての軸を作ることで、有るべき姿、目指すべき姿を明確にできるものです。その軸がしっかり定まっていないと組織に属する人が目指す方向もばらばらになってしまいます。

ビジョンがしっかり定まっていてこそ、

  • 組織にビジョンに沿った人材が集まる
  • ビジョン実現に向けて足りない課題が見えやすくなることで適切な改善ができる
  • 組織の構成員が判断に迷ったとき、ビジョンがその判断のよりどころとなる

ことが可能となります。

他国の留学生受入方針は?

比較するために欧米諸国の留学生受入方針を見てみます。欧米諸国は政府が、ビジョンとして、留学生受入方針を明確に示しています。

文部科学省:諸外国における留学生受入政策(2003)

アメリカ

グローバル化経済の進展の中で米国が世界のリーダーとしての地位を維持していくためには、国民の諸外国に対する理解を促進することが必要である

アメリカも日本も「世界のリーダーを目指す」という点ではビジョンは同じです。しかしそのビジョンへのアプローチの仕方は、

  • 日本・・・「外国人に単純労働を任せる」
  • アメリカ・・・「国民の諸外国に対する理解を促進する」

と全く異なります。

UK

なんのために留学生を増やすのかは上記の資料だけではよくわかりませんでした。

ドイツ

ドイツの大学の国際的な競争力を向上させることが必要であり、そのためには留学生受入れが重要である

フランス

次第にグローバル化が進む教育市場において、フランスの教育制度の魅力を高める上で外国人学生は重要な要素になっている

ドイツ、フランスはだいたい同じようなことを言っていると思います。日本と比較すると

  • 日本・・・「日本で働いてもらうために、留学生を受け入れる」
  • 独・仏・・・「自国の教育制度の魅力を高めるために、留学生を受け入れる」

とやはりアプローチが全く異なります。

アメリカ、ドイツ、フランスに総じて言えるのは留学生を受け入れることで「ダイバーシティ」を促進する狙いが有ることも読み取れると思います。

※ダイバーシティについては年始に書いた記事で説明しています。

「留学生30万人計画」が生んだ歪の原因

これまでに書いたことから私は、「留学生30万人計画」によって多くの歪が生まれたのは、もちろん悪いこと考えた学校が悪いのですが、それ以前に制度設計として、

・日本政府に「留学生30万人計画」の明確なビジョンがなかったこと

・「グローバル戦略」のビジョン達成のためのアプローチの仕方が世界の潮流(=ダイバーシティの促進)と異なっていたこと

も原因の一つとして考えられるのではないかと思います。

文部科学省さん、留学生受入政策見直して、もう一回やり直しませんかね。

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